衛星 × 6G × 防災デザインプロジェクト

研究領域について

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通信インフラ断絶時でも被害状況を把握できるシステムの実現を目指す。

本研究は、大津波で通信インフラが断絶しても被害状況を迅速に把握したい防災機関向けの、衛星とスマホを活用した双方向通信システムの実現を目指します。これにより、既存の衛星/通信技術と異なり、基地局に依存せず被害状況マッピングが可能となります。また、提案システムを使って人々の避難意図を高めるUI/UX デザインを行うとともに、防災機関の減災戦略を自治体と共創していくことを目指しています。

図1

図1:本研究プロジェクトが目指す双方向通信システム

「確率90%」 これは地震調査委員会が2022 年1 月に引き上げた南海トラフ巨大地震(周期:90〜150 年)の40 年以内発生確率です[1]。当該地震では、静岡から宮崎にかけて震度7 の強い揺れが数分にわたって続き、地震発生から最短数分で1m 以上の津波が沿岸部に到達し、最大34m にもおよぶ大津波襲来も予測されています。その結果、死者24.2万人 [2](cf. 東日本大震災の死者数:約1.6 万人)、負傷者62.3万人に達すると言われています。

発災後、このような人的被害を最小限に食い止めるには、生存率が著しく低下する「72 時間」以内の迅速な救助・救援活動が不可欠です。しかし大規模災害ほど、通信・交通インフラは壊滅的なダメージを受けます。実際に東日本大震災では、水没・流出により通信インフラが麻痺し、加えて、道路の亀裂・段差・落橋などにより、被害状況把握や人命救助は困難を極めました。これよりも超広域にわたる被害が想定される南海トラフ巨大地震において、既存インフラに頼らず、人口の空間分布、特に要救援者数の空間分布をいち早く把握し、限られたリソースを適切に配分する減災戦略(トリアージ)が必要です。先行事例では、地震・津波の影響を受けない準天頂衛星「みちびき」を活用し、基地局を経由せず、緊急情報を衛星から被災者に直接通知するシステムが検討されていますが、衛星→被災者の一方向通信に留まります。

しかし、既存通信網が断絶された状況下で被災状況を把握するには、被災者↔衛星間の双方向通信を実現する必要があります。とはいえ、いつ起きるか分からない津波のために、人々が衛星通信用の大型通信機を平常時から持ち歩くことは考えにくいと言えます。

そこで我々の研究プロジェクトは、多くの人が常時所有するスマホを活用し、双方向通信システムの実現を目指します。具体的には第1段階として既存のスマホ電波を活用した位置情報の把握、第2段階として災害時の輻輳を避ける双方向通信を可能にします。また、提案システムを活用し、人々の避難意図を高めるUI/UX デザイン、および、自治体との共創により救援トリアージのためのシステム活用方法の検討も行います。以上のように、超学際的に研究を推進し、来たる巨大地震・津波に備えて、人的被害を極限まで抑える実効性のある減災戦略実現に貢献することを目指します。

図2

図2:スマートフォンの通常時と非常時の切り替えイメージ
(全体図)

図3

図3:スマートフォンの通常時と非常時の切り替えイメージ
(詳細図)

本研究が目指すように、住民の津波避難意図を高め、津波に対する早期避難を実現できれば、死者を80%程度低減できるとの試算もあります[2]。また、双方向通信を実現し、適切な救援トリアージが可能になればさらに死者を減らすことができるでしょう。また、日本だけでなく世界の減災に向けて、タイ・プーケットの現地研究者らとの協働も行っています。プーケットは2004年のスマトラ沖地震により大きな津波被害を受けました。この地震も、同じ海溝型地震という特徴を持ち、必ず周期的に繰り返すと言われています。現在あるいは近い将来の技術では防ぐことが難しいこのような地震の発生に際して、適切な備えで被害を最小限に抑えることができるよう、日々研究に取り組んでいます。

参考文献

[1] 地震調査委員会(2023), 「長期評価による地震発生確率値の更新について」

https://www.static.jishin.go.jp/resource/
evaluation/long_term_evaluation/updates/prob2023.pdf
 (2023年1月18日 閲覧)

[2] 中央防災会議(2019),「南海トラフ地震防災対策推進基本計画変更(案)の概要」

https://www.bousai.go.jp/kaigirep/
chuobou/39/pdf/39_siryo2.pdf
 (2023年
1月18日 閲覧)

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